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トップページNEWS & COLUMN「ない情報」にどう向き合うか─見えない市場を探る力─
2025.06.19 UP

「ない情報」にどう向き合うか
─見えない市場を探る力─

【後編】一次情報という差別化資源






※前編はこちらをご覧ください。


■一次情報が必要となるシーン

例えば、新たな市場への進出や、新製品・サービスの立ち上げ。こうしたタイミングでは、検索しても、AIに聞いても、手がかりとなる情報が出てこない、ということがよくあります。

例えば、「建設業界向けの業務効率化に役立つ製品を開発しよう」というメーカーの企画チームがあったとします。公開情報や業界ニュースを調べれば、「人手不足」「高齢化」「デジタル化の遅れ」といったキーワードはすぐ出てきます。

そして、次のステップでつまずくのです。
 ・実際のところ、現場ではどんな作業に時間がかかっているのか?
 ・誰が意思決定しているのか?何が導入のネックになり得るのか?
 ・本当に困っているのは「作業者本人」なのか?「元請け企業」なのか?

こうした問いに対して、検索やAIによっておおよその回答にたどり着くことはできますが、一般論の域を脱せず、具体的な設計や判断には使えません。では、どうすればよいのか。




■情報を「作る」アプローチ

このメーカーでは、実際に建設現場を訪問し作業者や管理者にインタビューを実施しました。
すると──
 ・「既存製品はバッテリーの持ち時間が短くて、午後になると使い物にならない」
 ・「部材の持ち運びで腰を痛める社員が多い」
 ・「便利そうであるが、現場作業者の大半は実物を見たことすらない」 

といった、企画会議では議論に及ばなかったリアルな声が得られたのです。
これにより、製品開発の優先順位や販売戦略が大きく見直されることになりました。

つまり、情報がないなら作ればいい。
こうして独自に収集した情報を「一次情報」と呼びます。生成AIの台頭などにより、二次情報(公開情報)や三次情報(情報源が不明確な、信頼性の低い情報)が爆発的に増えており、その結果、一次情報の価値はこれまで以上に高まっていくものと考えられています。




■「聞きに行けばいい」は、簡単そうで難しい

しかし、自社の取引先や関係先にインタビューする場合は、落とし穴もあります。

① 関係性によってバイアスがかかる
  取引先や関係企業にインタビューする際には、「気遣い」「お世辞」といった強いバイ
  アスがかかることを念頭に置く必要があります。今は取引関係がなかったとしても、
  インタビューされる側が今後取引したいと思うような大手企業がインタビュアーにな
  ると、ネガティブな、都合の悪い情報というのはなかなか語られません。

② 「答えやすいことしか聞けない」構造になりやすい
  事業の企画担当者などの当事者がインタビューする場合、不都合な比較や、そもそも
  の仮説や前提の妥当性を疑われるような質問は避ける傾向にあります(自覚の有無は
  さておき)。インタビューを受ける側も「どう切り替えしたらインタビュアーが困る
  のか」を察してしまえば、回答を濁すようになったり、答え方を変える可能性もある
  でしょう。





また、最近はエキスパートインタビューサービスを使って、自社でインタビューを行う企業も増えています。しかし、そこにも落とし穴があります。

例えば、化学メーカーの新規事業チームが「食品包装分野への材料展開」を検討したケース。
エキスパートインタビューを活用し、食品業界の元研究者、元購買担当者などにインタビューを行いました。

ところが──
 ・回答は「数年前」の経験談であり、今の現場感覚を欠いている
 ・誰もがバラバラの定義・視点で話しており、論点が定まらない
 ・仮説設定が浅かったため、聞きたいポイントがズレていた 

結局、情報をどう扱っていいのかわからなくなり、「やった感」だけが残る結果に。
「聞く」ことができても、今の課題解決に活かせるよう整理できなかったのです。

そして、自ら行うインタビューやエキスパートインタビューサービスでは、
基本的に競合企業へのアプローチは困難です。




■「ない情報」から次の一歩を踏み出す

情報がWebで拾えない。まだ誰も調べていない。そこで、「じゃあ、調べてみよう」と一歩踏み出せるかどうか。
そして、その「調べ方」をどうデザインするか。ここが、これからのビジネスにおける差別化の要素となります。

そして、こんな心当たりはないでしょうか。
 ・「取引先に聞いてみたけど、当たり障りのないコメントばかりだった」
 ・「自分たちでインタビューしてみたけど、意思決定に活かすことができなかった」
 ・「調査の必要性は感じていたけど、社内の限られたリソースでは動けなかった」

私たちは、そうした「やるべき」だけど「できなかった」取り組みを、現実的な形で引き受ける存在です。「ここまでは自分たちでやる。ここからは外部に任せる」。そんな柔軟な使い方も、もちろん可能です。

動きたくても止まっているテーマがあるなら、一度、外部に委ねる選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。




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