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トップページNEWS & COLUMN「ない情報」にどう向き合うか─見えない市場を探る力─
2025.06.16 UP

「ない情報」にどう向き合うか
─見えない市場を探る力─

【前編】情報が溢れる時代、「ない情報」こそ価値を持つ






■情報収集は飛躍的に簡単になった

ビジネスに必要な情報を集める手段は、近年格段に増えています。ビジネスメディア、ニュースアプリ、SNS、調査レポート、多種多様なデータベース、そしてChatGPTをはじめとする生成AI。「とりあえず検索してみよう」「AIに聞けば答えてくれるだろう」
――情報収集は、以前に比べて圧倒的に速く、手軽に、安価になりました。

例えば、次世代モビリティ分野に関する事例を調べるとき。
検索フォームに「自動配送ロボット 導入事例」と打ち込めば、環境省や経産省の調査資料、スタートアップの取り組み事例、自治体の実証実験の記事などをすぐに見つけることができるでしょう。ChatGPTに「ラストワンマイル配送に関する最近の注目動向を教えて」と尋ねれば、Web上に点在する国内外の情報を綺麗にまとめて、解説してくれるでしょう。

しかし──それで、本当にビジネス上の判断ができるでしょうか?




■誰もが同じ情報を見ている

情報の「民主化」は我々に多大な恩恵をもたらしていますが、ここには大きな落とし穴もあります。「簡単にアクセスできる情報」とは、つまり「他の誰かも同じようにアクセスできる情報」だという事実です。

例えば、家電メーカーの企画チームが「ヘルスケア」×「高齢者向け」の新製品・サービスを検討していたとします。高齢者向けIoT、健康管理アプリ、遠隔診療サポートなど、トレンドのキーワードで検索すれば、多くの記事やレポートが出てきます。

けれど実際には、
 ・メディア記事は各社のリリースをなぞった内容ばかり
 ・レポートは業界全体の概況止まり(浅い)
 ・他社の先行事例は詳細がわからない(数字が見えない)

ということも多く、次の一手に踏み込める情報がないと感じるケースも珍しくないでしょう。

そして、多くの情報を集めた結果、他社と同じような企画が仕上がってしまう。
そんな罠に、気づかず陥ってしまうのです。





■AIで掴めること、掴めないこと

ChatGPTの登場以降、「とりあえずAIに聞いてみよう」と考える人は多いでしょう。生成AIは公開されている知見の整理・要約には長けていますし、推論も得意分野です。Deep Researchも非常に優秀であり、すでに多くの「調べもの」は生成AIで賄える世界になっています。

ですが、AIで得られる情報は、過去に誰かが公開した情報(や、その延長線上の推定)
が中心です。
 ・いま特定の市場で起きているリアルな課題

 ・いま企業や事業担当者が抱えている悩み

 ・開発中の製品・サービスのポテンシャル


といった現在の、個別具体的な文脈に沿った情報を、AIは知り得ないのです
(誰かが公表しない限り)。




■「情報がない」はチャンス

裏を返せば、「情報が出てこない」「参考になりそうな事例がない」というテーマこそ、他社があまり手をつけていない未開拓の領域であり、差別化の可能性が眠っているポイントと言えるかもしれません。

余談ですが、調査会社がレポートを発行する市場とは、調査会社がレポートを一定量販売できると判断した領域であり、つまり、基本的には競合が数多く存在する、顕在化した市場にフォーカスしています。
新規事業の開発を担う人の中には、「簡単に情報が集まってしまうようでは、既に厳しい」という見解を示す人もいます。

そして、表面的な情報の多寡ではなく、深く掘れる余地があるか、現場でないと見えない構造があるか、などがこれからの情報収集では重要と考えられます。




【後編の予告】

情報がない時、どう動くべきか?自分たちで作る?誰かに頼る?
後編では、「ない情報」をどう集め、活かすかの実践的なヒントを探ります。





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