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2021.06.16 UP

科学技術情報・動向からビジネス上の示唆を得るための視点
【第2回】科学技術予測調査

科学技術情報・動向からビジネス上の示唆を得るための視点



研究開発以外のビジネスマンにも役立つ科学技術情報の最初の紹介は、1971年から約5年ごとに行われている「科学技術予測調査」(文部科学省科学技術・学術政策研究所/NISTEP)です。

最新の調査は2019年に発表された「第11回の科学技術予測調査」で、ターゲットイヤーを2040年とし調査対象期間の2050年までの科学技術と社会の未来像と技術開発の実現時期や社会的に利用される時期を多くの専門家への調査から予測しています。

政府は2000年末に「グリーン成長戦略」として、EV自動車や洋上風力発電など14の重点分野の2050年までに温暖化ガス排出量ゼロにする工程表を「グリーン成長戦略」として発表しました。これにより、国家戦略として、脱炭素化社会の実現に向けた技術革新が求められることになります。

「科学技術予測調査」は、単に、2050年までの科学技術と社会の未来像を予測として描くだけでなく、技術開発の実現時期や社会的な利用の実現時期を、今後の国家戦略としていつにすべきか、などを検討する際の国の重要な政策立案の基礎資料となるものです。

このように中長期的な技術の国家戦略を検討するために「科学技術予測調査」は重要な資料となるものですが、民間企業の研究開発の技術部門はもちろんのこと、経営企画や営業部門、マーケティング部門などのビジネスマンにとっても今後の事業戦略を検討するときに有益な情報になりうるものです。

また、日本経済新聞が行った「社長100人アンケート」(2020/12/29日本経済新聞掲載)で「2050年温暖化ガス排出ゼロに向けた計画策定の時期」を尋ねたところ、主要100社のうち約8割がここ1~2年で中長期的な経営計画を策定または策定を計画しています。具体的に「日本が力を入れるべき技術革新のテーマ」として、「次世代の再エネ発電」「水素の活用技術」「電池の高効率化」「デジタル技術を活用した電力ネットワーク」「電動モビリティ」などをあげています。
これら企業において「科学技術予測調査」の内容は、「2050年温暖化ガス排出ゼロに向けた計画策定」などには大いに役立つ情報です。


出所「附属資料 2050年の未来につなぐクローズアップ科学技術領域」(NISTEP)


ところで、5年ごとの「科学技術予測調査」はどのように調査をされているのでしょうか。「科学技術予測調査」は実に膨大な時間とコストをかけて文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめています。

「科学技術予測調査」においては、2040年の「望ましい社会の未来像」を明らかにするために、多数の専門家の知見を収集・分析するワークショップを重ね、2040年の「望ましい社会の未来像」として、「世界の未来」(14ヵ国・機関で検討)、「地域の未来」(6か所、延約340名で検討)、「日本社会の未来」(約100名で検討)の社会像を「4つの価値」と具体的な「50の未来像」にまとめています。

具体的には2040年の社会の未来像を「4つの価値」(1)Humanity(変わりゆく生き方)、(2)Inclusion(誰一人取り残さない)、(3)Sustainability(持続可能な日本)、(4)Curiosity(不滅の好奇心)として提示しています。
以下のような4つの「価値」と具体的な「未来像」は大変示唆深いものがあります。

(1)Humanityの『変わりゆく個人の生き方』については、2040年までには「だれでもクリエーター社会」とか「バーチャル空間の拡張を通じて人格が複数存在するような「多重人格社会」や「寿命選択制社会」などが実現している社会を予測しています。

(2)Humanityの『変わりゆく暮らし・コミュニティ』では、2040年までには「超ロボット社会」が実現するとし、重労働の多くがロボットにより省力化する「“楽”社会」が実現し、自由時間の拡大が起きるとされています。「労働の多様化社会」では、AI、ロボット、ICT等により在宅勤務が主となり、テレビ電話やネット・VR会議などの普及で、仕事のために人が移動しなくなる、など、いまコロナ禍に直面して表面化した現象が予測されています。

(3)Sustainabilityの「持続可能な日本」の未来像では、資源をどれだけ高い変換率で生産に結び付けられるかを競い合う「“換”社会」になると予測。また、「次世代IoTによる超低炭素社会」が実現し、GDPを豊かさの指標とする考え方から転換し、大量消費サイクルから抜け出しCO2排出量の削減を実現するSDGsの社会を予測しています。さらに幸福感の形成を支援するデジタル経由の価値が流通するとも予測しています。

このような具体的な未来像を見ていくことは、ビジネスマンにとって自社の将来を考えるうえで有益な示唆を与えてくれる興味深いものです。

出所「第11回科学技術予測調査ST Foresight2019の概要」(文科省科学技術・学術政策研究所)より


一方、2040年の社会の未来像を予測する際、それを実現させる技術の予測として74名の専門の研究者により選出された7分野における702の科学トピック(研究開発課題)について、約5300名の産学官の専門家への繰り返しアンケート調査を行うデルファイ法により、「科学技術的実現時期」と「社会的実現時期」を予測しています。多くの研究者に対して行うデルファイ調査は民間企業レベルではとても実現できない規模の調査といえるでしょう。

具体的な内容は、702の研究開発課題の「重要度」「国際競争力」「科学技術的な実現の見通し」「社会的実現の見通し」について2040年をターゲットイヤーとして、2050年までの30年間の科学技術の発展の方向性について展望したものです。

<科学技術予測調査の調査分野>
(1) 健康・医療・生命科学
(2) 農林水産・食品・バイオテクノロジー
(3) 環境・資源・エネルギー
(4) ICT・アナリティクス・サービス
(5) マテリアル・デバイス・プロセス
(6) 都市・建築・土木・交通
(7) 宇宙・海洋・地球・科学基盤

出所「第11回科学技術予測調査ST Foresight2019の概要」(文科省科学技術・学術政策研究所)より


専門家へのデルファイ調査による各分野における重要度の高い技術テーマは下記の通りです。これらは専門家からみて将来にもっともニーズの高いテーマであり、企業の成長戦略にとってはかなりエビデンスの高い有望分野であり、ビジネスに活用しない手はありません。


「第11回科学技術予測調査」は最新の調査結果ですが、2020年からの世界的な新型コロナウイルスの大流行によって、その予測調査結果に今回のコロナ禍の影響を考慮する必要に迫られました。そこで、NISTEPは2020年9月~10月にかけて第11回調査で取り上げた702の科学技術トピックについて、コロナ禍を経た科学技術の実現見通しの変化や重要度について追加アンケートを行いました。すでに本調査でも予測されていたことですが、コロナ禍によって「仕事や働き方」「健康危機管理」に関する技術開発が少なくとも1~2.5年程度早まると予測を修正しています。


<ビジネスに役立つ科学技術情報源>
■「科学技術予測調査」 文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)
https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-foresight-and-science-and-technology-trends
■「コロナ禍を経た科学技術の未来(速報版)
https://www.nistep.go.jp/archives/46169
■コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像(NEDO技術戦略研究センター)
https://www.nedo.go.jp/content/100919493.pdf


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