結果:高血圧患者を対象とした薬剤費・薬剤選択に関する実態調査
調査目的
この度、日本能率協会総合研究所(代表取締役社長:榮 武男)が行った高血圧通院患者を対象とした調査で、約6割の患者が1ヶ月に支払う総薬剤費を「負担」に感じているが、薬剤費に関して「医師に相談したことがある」のは約1割しかいないことが明らかになりました。
また、薬剤の“選択”に関しては、「医師に完全に任せている」患者が約8割いたものの、実際には「効果と安全性がほぼ同じであれば値段の安い薬に変えたい」と希望している患者が9割おり、患者が薬剤変更の希望を持っていても、実際にはそれを医師に伝えられない現状が明らかになりました。さらに、薬剤費の負担が増加した際には、約半数が「食費を減らす」と回答するなど生活費を削って対処する意向を持っていること、また「通院回数を減らす」、「通院先の施設を減らす」など、受診抑制が懸念されることも明らかになりました。
この調査は、同社が開発したJ-ヘルスケアリサーチシステムを用い、本年1月に実施したもので、40歳から84歳までの高血圧で通院中の患者452人を対象に、「薬剤費」や高血圧治療の際の「薬剤選択」、ならびに医療費負担増加の際の対処法などについて調査したものです。
調査概要
| 調査手法 | 小社「J-ヘルスケアリサーチシステム」による FAXアンケート調査 |
|---|---|
| 調査対象者 | J-ヘルスケアリサーチモニター世帯のうち、全国に居住する方で 高血圧の治療のために病院へ通院している40〜84歳までの男女 |
| 発送数 | 720票 |
| 回収数 | 452票(有効回収率62.8%) |
| 調査期間 | 2006年1月26日(木)〜31日(火) |
トピック
約6割が、1か月あたりの総薬剤費を「負担」に感じている
現在支払っている1か月の総薬剤費に対する“負担感”への質問では、「負担である」と「やや負担である」をあわせて、全体の58.7%が「負担」と回答しました。年齢別にみると、60代で63.5%と最も負担感があり、50代、40代がそれぞれ61.7%、60.6%と、40代から60代では負担を感じている人が6割を超えていました。70代以上でのみ52.0%と、他の世代と比較して負担感が若干低い傾向にありました。
同様に、この負担感を「年収(収入)別」でみると、400-600万円未満が64.3%と最も負担感があり、400万円未満が63.6%と続き、600-800万円未満が51.4%、800-1000万円未満が54.0%、1000万円以上が50.0%と、年収が600万円以上では、負担を感じているのは半数前後でした。(資料1)
約9割が薬剤費に関して医師に「相談したことはない」
降圧薬の薬剤費について「医師に相談した経験」をたずねたところ、「相談したことはない」、「相談したいと思ったことはあるが、実際には相談したことはない」をあわせて、全体の93.1%が「相談したことはない」と回答し、「相談したことがある」のは6.9%のみでした。相談したことがない理由では、39.4%が「(相談しても)薬剤費が安くなるとは思わないから」、33.0%が「どのように相談したらよいかわからないから」と回答しました。
一方、薬剤費に関して「医師からの説明」を受けたことがあるかどうかでは、「一度も受けたことがない」人が46.7%と半数近くいました。(資料2)
降圧薬の選択は完全に「医師任せ」だが、効果と安全性が同等の値段の安い薬に「変えたい」
現在支払っている降圧薬の薬剤費の「価格感」では、「高い」と「やや高い」をあわせ、全体で52.2%が「高い」と感じており、43.6%が「適正である」と回答しました。しかし、「現在服用している降圧薬と同じような効果と安全性があって、値段の安い薬があれば、その薬に変えたいと思うか」という質問では、「医師がその薬でも自分の病状に合っていると判断するなら」、「薬の効果と安全性について十分に説明を受けた上で納得できるものであれば」といった回答をあわせて、全体の91.6%が、値段の安い薬に「変えたい」と回答しており、価格感や負担感が高くないと回答した患者でも、値段の安い薬を希望する傾向が明らかになりました。
しかし、降圧薬の選択に関する“現状”では、77.9%が「医師に完全に任せている」と回答しており、「他の薬を処方して欲しいと頼んで変えてもらっている」人はたったの0.2%(1人)しかいなかったことから、患者が自分の希望を医師には伝えられずにいる現状が明らかになりました。(資料3)
医療費の患者負担額増には、生活費を切り詰めるだけでなく、受診を抑制する可能性も
「今後医療費の患者負担額が増え、それを負担に感じた場合にどうしようと思うか」という質問では、43.4%と約半数が「食費を減らす」と回答し、77.7%が「家計全体で節約する」、72.8%が「趣味や娯楽にかかる出費を減らす」と生活費を削ることで対処する傾向にあることがわかりました。また、36.5%が「通院回数を減らす」、24.6%が「通院先の施設数を減らす」、15.3%が「薬を飲む回数を減らす」、14.2%が「1回に飲む薬の量を減らす」と回答しており、これらの患者の受診抑制が懸念される結果となりました。(資料4)
現実に支払っている薬剤費と、限度額との差額は1,600円程度
1か月に支払える薬剤費の“限度額”をたずねたところ、5,000円〜7,000円未満と回答したのが33.8%と最も多く、次いで3,000円〜5,000円未満が20.1%、10,000円〜15,000円未満が12.2%と続きました。平均値は5,683円でした。
一方、現在の1か月あたりの薬剤費の“総額”では、3,000円未満が31.9%と最も多く、3,000円〜5,000円未満が26.3%、5,000円〜7,000円未満が17.3%と、あわせて約8割(75.5%)が7,000円未満でした。平均値は4,090円でした。(資料5)
厚生労働省の国民医療費の概況によると、「循環器系の疾患」が占める医療費の割合は5兆3,039億円(平成15年度)と、全体の医療費のうち最も高い22%を占めており、65歳以上では31.1%を循環器系の疾患が占めています。傷病分類の内訳では、「高血圧性疾患」が1兆9,114億円と、「悪性新生物」に次いで高い医療費を占めています。
こうした状況の中で高血圧患者は、薬剤費の支払いを負担に感じたり、降圧治療にかかる薬剤費を高いと感じており、現在服用している降圧薬と、効果と安全性が同等であれば値段の「安い」薬剤にしたいと望んでいるものの、実際には、薬剤選択は医師任せであり薬剤変更について医師に相談した経験もないことが、今回の調査から明らかになりました。また今後医療費の患者負担が増えた場合、受診抑制の懸念も示唆される結果となりました。
現在使用されている降圧薬は、大きく6つのカテゴリーに分けられますが(α、β、Ca、AU、ACE、利尿薬)、製薬各社から発売されている各カテゴリーの主要薬剤を比較した場合、それぞれ有効性がほぼ同等でありながら、薬剤によっては薬剤費に2倍以上の差がある、という現状にはあまり目が向けられていません。(資料6)
高血圧の治療は、脳卒中や心筋梗塞などの発症を抑制することが主な目的であり、そのためには長期間、血圧を正常範囲にコントロールすることが大切です。そのため、高血圧治療においては、どれだけ負担の少ない薬剤費で、有効性と安全性に優れた“質の高い”医療を提供できるかを常に考慮し、治療を継続させることが極めて重要なことです。
このことから、高血圧治療にあたる医療従事者は、患者の薬剤費への負担感や医療費を常に意識して、費用対効果の高い、より“経済的な”薬剤を選択することが今後強く望まれます。また患者には、薬剤費を負担に感じた際には、家計で節約したり、受診を抑制するのではなく、医師に相談する方法もあるということを伝えていくことが必要だと思われます。
調査結果
資料1:約6割が、1か月あたりの薬剤費を「負担」に感じている
全ての病気の薬剤費の負担感
現在支払っている1ヶ月あたりの薬剤費(全ての薬代)に対して、どの程度負担に感じていますか?(単一回答)(n=452)
「負担である」が20.4%、「やや負担である」が38.3%と、あわせて約6割が「1か月あたりの薬剤費」を「負担」に感じていた。
全ての病気の薬剤費の負担感
現在支払っている1ヶ月あたりの薬剤費(全ての薬代)に対して、どの程度負担に感じていますか?(単一回答)(n=452)
「負担感」を、年代別にみると、最も負担感が高かったのが「60代」で63.5%、「50代」で61.7%、「40代」で60.6%と、40代から60代では負担を感じている人が6割を超えていた。
【年収別】 全ての病気の薬剤費の負担感
現在支払っている1ヶ月あたりの薬剤費(全ての薬代)に対して、どの程度負担に感じていますか?(単一回答)(n=452)
「負担感」を、年収別にみると、最も負担感が高かったのが「400〜600万円未満」で64.3%、「400万円未満」で63.6%と続いた。年収が600万円以上では、負担を感じているのは半数前後だった。
資料2:約9割が薬剤費に関して医師に「相談したことはない」
降圧薬の薬剤費についての医師への相談経験
降圧薬の薬剤費について、医師に相談したことがありますか?(n=452)
79.6%が「相談したことはない」、13.5%が「相談したいと思ったことはあるが、実際には相談したことはない」と、93.1%が「相談したことはない」と回答。「相談したことがある」のは6.9%のみだった。
降圧薬の薬剤費について医師に相談しない理由
(降圧薬の薬剤費について、医師に) 相談したことがないのは何故ですか?(n=421)

複数回答で、39.4%が「(相談しても)薬剤費が安くなるとは思わないから」、33.0%が「どのように相談したらよいかわからないから」と回答した。
降圧薬の薬剤費について医師から説明を受けた経験
いままでに医師から降圧薬の薬剤費に関して説明を受けたことがありますか?(n=452)
「受けたことがある」の30.5%と、「十分に説明を受けている」の9.1%をあわせ、薬剤費の説明を受けたことがあるのは39.6%だった。一方、「一度も受けたことがない」が46.7%と半数弱が説明を受けていなかった。
資料3:降圧薬の選択は完全に「医師任せ」だが、効果と安全性が同等の値段の安い薬に「変えたい」
降圧薬の薬剤費の価格感
現在支払っている、降圧薬の薬剤費について「高い」と感じますか?(単一回答)(n=452)

「高い」と「やや高い」をあわせ、52.2%が、降圧薬の薬剤費を「高い」と感じていた。
降圧薬は同等の効果と安全性があるなら安いほうが良い
現在服用している降圧薬と同じような効果と安全性があって、値段の安い薬があれば、その薬に変えたいと思いますか?(n=452)

「変えたい」が31.2%、「医師がその薬でも自分の症状に合っていると判断するなら変えたい」が47.3%、「薬の効果と安全性について十分に説明を受けた上で納得できるものであれば変えたい」が13.1%と、あわせて91.6%が「変えたい」と回答した。
降圧薬の選択に関する現状
降圧薬の選択について、現状を教えてください。(n=452)

降圧薬の選択は「医師に完全に任せている」と77.9%が回答した。「他の薬を処方して欲しいと、頼んで変えてもらっている」のは0.2%とたった1人しかいなかった。
資料4:医療費の患者負担額増には、生活費を切り詰めるだけでなく、受診を抑制する可能性も
患者負担の増加への対処方法
今後医療費の患者負担額が増え、それを負担に感じた場合、どうしようと思いますか? 各項目について「はい」か「いいえ」でお答えください。(n=452)

複数回答で、43.4%が「食費を減らす」、77.7%が「家計全体で節約する」、72.8%が「趣味や娯楽にかかる出費を減らす」と回答し、治療に関わる費用(通院回数、服薬回数および量、通院先施設の数)を減らすと回答した患者も2〜3割前後いた。
資料5:現実に支払っている薬剤費と、限度額との差額は1,600円程度
全ての病気の薬剤費の支払い限度月額
あなたが、1ヶ月に支払える薬剤費の限度額は、いくらぐらいですか?全ての病気の治療薬合計で、なるべく千円単位(3千円、5千円など)でお答え下さい。(n=452)

「5,000円〜7,000円未満」が33.8%で最も多く、「3,000〜5,000円未満」が20.1%、「10,000〜15,000円未満」が12.2%と続いた。
全ての病気の薬剤費の総月額
現在支払っている1ヶ月あたりの薬剤費(全ての薬代)のおおよその総額を教えてください。
※全ての病気の治療薬合計でお答えください。(n=452)

「3,000円未満」が31.9%、「5,000円未満」が26.3%と、約6割が5,000円未満だった。
資料6:主な降圧薬の費用対効果と年間薬剤費
各種降圧薬の費用対効果

※ 各種降圧薬のうち、1989年以降の新ガイドラインで承認されたものを採用した
※ 1日単価は、通常服用の最大量を採用した(効果不十分な場合の最大投与量は除外)
※ 有効率は、基本的に本態性高血圧に対する単独投与のものを採用した
※ 平成16年3月の薬価改定に伴い、原著のグラフを改変した
立川幸治ほか: 薬理と治療 28(9):833, 2000より改変
主な降圧薬の年間薬剤費

※ 各薬剤の1日薬価(薬価は平成18年3月6日官報 号外第46号より引用)×365日にて算出
※ 1日薬価は、通常服用の最大量を採用した(効果不十分な場合の最大投与量は除外)
※ ロサルタン:AII受容体拮抗薬 / エナラプリル:ACE阻害薬 / ドキサゾシン:α遮断薬
アテノロール:β遮断薬 / アムロジピン:Ca拮抗薬 / トリクロルメチアジド:利尿薬
立川幸治ほか: 薬理と治療 28(9):833, 2000より改変(新薬価による再計算)

